青春メトロノーム

ぼーっと家電屋さんの前で立ち止まっていた私に声をかけたのは、颯太たちのお父さんだった。

「おじさん。こんにちは。仕事帰り?」

銀のフレームの眼鏡をした、大人になった颯太。
そんなイメージが強いほど、颯太はおじさんにそっくりだった。
「こんばんわ、かな。仕事帰りだよ。君のおじさんなら今日はもう少し遅くなるみたいだけど」
「別に父を待ってたわけじゃないですよ。ちょっと、なんていうんだろ。大切に育ててた花が、いきなり色を変えて咲いた気分。もしかして誰かが植え替えた花なのかって疑ってしまうような、自分の花なのに信じられないような」
「ふむ。百花ちゃんは哲学的だなあ」
感心しているおじさんの目が点になっていた。
どうやバッリバリの理系であるおじさんには、乙女の気持ちのたとえが分からないらしい。

鈍感な部分は颯太とそっくりだ。

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