青春メトロノーム
私は頷くと、おじさんは困ったような、泣きだしそうな顔をした。
「始発のバスに君は乗り込んだ。でも――寒い日だった。前日に降った雨のせいで出来た水溜りが凍り、バスは滑って反転した。これも覚えてる?」
「……うん」
私が、高校までの距離をバスで通えないのはそのせいだった。
昔、バスの事故で足を怪我したせいで、バスに乗るのが怖い。
「あの時、君の事もなんだけど、颯太の最後の試合だったのに……仕事を優先したって酷く責められたんだ。普段そんなことを言わない人なのに、あの時は誰もまともじゃいられなかったからね。あの時から離婚に向けた別居みたいになっちゃったね」
へらりと笑ったおじさんは、緊張しているのかスプーン山盛りにニンニクを掬い、ドンブリの中に放り投げた。絶対に明日もにんにくの匂いが取れなさそうだ。
「百花ちゃんも食べなよ」
「女の子に山盛りのニンニクを薦めるつもりですか」
苦笑した私に、おじさんは笑わなかった。
「キミもわたしも、ここが踏ん張りどころだよ」