悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
にやりと巧が笑ったのだろう。
素性がばれてしまったタヌキ野郎は、酔いも冷めるや否や、もうダッシュで逃げて行った。
「折角の綺麗な庭園に、なんで野生動物が侵入してくるかな」
「……来るの早かったね」
「電話貰った時、駐車場だったんだ」
じゃあそう言えばいいのに。というか、早く来てくれたらいいのに。
「お前ってさ、酔っ払いも絡んでこれないようなオーラ出してるからちょっと安心してたけど、すげえ焦っただろ」
ネクタイを掴んで整えながらも、走って来てくれたみたいで、小さく息を整えてくれている。
私ならもう少しねちねちと相手のダメージを与えて黙らせていたか、逆切れして更に絡まれていたかもしれないのに、巧は一度で追い払ってくれた。
「ってか、『俺の婚約者だ!』って飛び出してくれたら格好良かったのに」
「アホ」
短くそう吐き捨てると、私の目を真っ直ぐ見つめてきた。
息を整えているのは、私の為に走って来てくれたから。
そう思うと、じわっと胸が熱くなるのが分かる。