悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
「本当はお前が留学する前に、一度話が出たんだ」
「話って?」
「留学から帰ったら結婚できるように婚約みたいな?」
その話は初耳だった。でもそれだったら私と巧は大学を出たばかりだ。
急過ぎる。
「俺はそれが嫌だったんだよな。本当にそうしてしまったら、お前、仕事人間になってしまいそうで」
「仕事人間ってねえ。別にこの仕事嫌いじゃないし」
「仕事っていうか、頭を使うのが好きなんだろうなって思う。俺がこうしたい、今日はこれを、みたいに思ってると必ず隣にいてサポートしてくれる感じ。それは有りがたいけどさ」
少し先を歩いていた巧は、じゃりっと深く音を立てて立ち止った。
そして私の方を見て、困ったように苦笑する。
「もう少し、俺の前ぐらいでは肩の力を抜いてもいいのにって思う。頼っていいって」
優しく頭に触れた手が、そのまま流れるように私の頬を撫でていく。
その触れるか触れないか分からない様な優しい感触に、息がつまった。