悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
「悪いけど、王子様が現れたとしても渡す気はないから」

「王子様って……キース?」

確かに女子社員たちは一目見ただけで騒いでいたけれど、自分だってそんな容姿をしているくせに。

「案外お前って、目を離したら浚われそう」
「浚われるわけないじゃん」

「分からねえよ。だって、お前、男を何も理解してねえし」

はあと、肩の力を抜いて、私を見る。

「そんなお前を知ってるのは俺だけで良いから」

「ば、ばっかじゃないの」

巧だって勝手に頭の中で自分の目指す理象像を持ってて、それまで私に言わないなんて。
一度逃したタイミング。
再びそのタイミングに合わせようとして大きく擦れ違っていたようにも感じた。

「馬鹿でもいいよ」
背中を向けて歩いていく。
その背中が大きくて、巧の急いで走ってきた時の名残の汗が顎に滴り落ちると、柑橘系の香水の香りが鼻を掠める。

私も、私だけで良いと思う。
こんな格好つけた背中を見せる巧の事。

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