悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
知れば知るほど近くなる。
知れば知るほど、逃げだしたくなる甘い衝動。
「キースくん、飲んでるかい?」
「日本酒が飲めるなんて、珍しいねえ」
「はい。シノに頂いたことがありましたので」
宴もたけなわに……なんて言葉が出てくる気配が一向にない。
顔色を変えずに、綺麗にお酒を飲むキースとその部下。
馬鹿みたいに赤い顔になってご機嫌なタヌキ二匹。
愛想笑いを浮かべつつ、明日の仕事の打ち合わせを始める竜崎と巧。
これは、もう巧と二次会へ繰り出す時間も気力もないな。
誰か酔い潰れてくれたらさっさとタクシーを手配して帰るのだけれど、どうしたものか。
「シノ、もう庭園は歩いた?」
「あ、えっと本の少しだけ」
ちらりと巧を見たが、一瞬だけきつく目を眇めてきた。
「良かったら一緒にちょっとだけ散歩しないかな?」
「はい。そうでうね、では酔っ払った社長たちも御一緒に」
「いーいー。私達は勝手に飲んでおくから、行ってきなさい」
今日のアンラッキーワード『庭園』じゃないだろうか。
そう思えてしまう。
「すぐ締めあげるから」
竜崎だけではタヌキの相手はできないだろうと、巧が耳元で囁く。
巧に二人の手綱を掴んでもらい、私はキースと再び庭園へ向かった。