悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
そうだ。巧だって石ころより私の方が魅力的だって分かってる。
私の方が一緒に居てお互い支え合えるしね。
「巧君、本当は君にオーストラリア支社に就任してもらおうと思っていたんだ」
父の声に、襖を開けようとしていた手が止まる。
「それを副社長の高永くんが、君の代わりに行くと言っているのは、ほかでもない。もう長くない栄子さんを喜ばしてやりたいからなんだよ」
「ばあさん、元気そうだったけど?」
「お前や志野の前では明るく振舞っているだけだ。それでもきっと不安なんだろう。母さんが選んだ子なら、私も社長も反対しない」
栄子おばあさまが選んだ。
その言葉に襖から手が離れた。
あんなにお慕いしていた栄子おばあさまが、私よりあのこが巧に相応しいと思ったのだろうか。
「ふざけるなよ」
巧の言葉に、その不安が片隅に追いやられる。
「あいつがどんな奴か、ばあさんが良く分かってる。ばあさんがあいつが居るのに森元を俺の婚約者に、なんて言うはずねえ。そんなことしたら、あいつがどんだけ傷つくか分かってるだろ」
普段、仕事の立場上から、副社長にも社長にも徹底的に敬語で話していた巧が、素で話している。
いや、もしかしたら素よりも言葉が荒いし、怒っているのを隠そうともしていない。
「志野は、この会社で自分がどんな位置で、そんな振舞いをするべきか分かっている。馬鹿みたいに真っ直ぐに、自分の立場を分かって生きている。そんなあいつの事を否定するようなこと、言うな」
「シノ……」
ソッとキースが私にハンカチを差し出した。
……いつの間にか私の目から涙が零れ落ちていた。
巧だけが私のことを見ていてくれたんだ。