悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
部下の子がタクシーを呼んでくれたので、私とキースは庭園の前で待っていた。
この庭園、美しいのにもう二度と見たくないと思えてしまう。
池にたゆたう月が、私の迷いと同じぐらい揺れていた。
「巧ってね、小さいころから口が悪くて、横暴で我儘で、なのに何でも出来ちゃう奴でね」
居た堪れない空気の中、息とともに吐きだす様に愚痴が零れて行く。
「口だけじゃないの。自分は出来るからズバズバ言うの。今はそれを上手に隠して、猫を被るのを覚えたけれど、私はきっとその姿が理想で、格好良いって思ってるんだと思う」
「そうですね。頭は良いのだと分かりますよ。卒なく何でもこなす優等生みたいです」
キースが優しい。
今ならば、キースがダーツの時に私に何を伝えたかったのか分かる。
海外赴任だとか、タヌキ二人の画策とか、そんなので私が傷ついているわけじゃない。
漸く二人で、お互いの気持ちに向き合って進めていけるって前進を始めた今、親や仕事に邪魔されて、順番全部素っ飛ばされて皆の前で結婚の選択を迫られたのが嫌がった。
ごちゃごちゃした周りなんてどうでもいい。
巧とふたりでちゃんと選びたかった。