悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
結局、副社長はランチを秘書たちに奢ることにしたらしくデリバリーを立花さんが頼んでいた。
昼の仕事も確認した。帰りもタクシーで帰れば休憩時間で帰って来れる。
少し遅れるかもしれないと、事前に外出許可は取っている。
閑静な住宅街を抜けて、ちょっとだけ坂を上がったところに栄子おばあさまの入居している老人ホームがある。
『まるで秘密の花園みたい』
栄子おばあさまが、少女のように頬を染めて喜ばれた老人ホームで、花の咲き乱れた庭園やアーチをくぐり抜けると、洋館が見えてくる。廊下や小物、家具は全てロココ調。段差もないが、部屋の一つ一つがスイートルームのように広く煌びやかで、とんでもない額の入居代がかかるのに、予約者は何十人も待たされている。
カフェテリアのような、吹き抜けの窓とソファが置かれたロビーに、美しく花が生けられていた。
それは栄子おばあさまの作品だと確認しなくても分かった。
「志野ちゃん」
タッと小さな足音がして右手の廊下へ視線を向けると、紫色のストールを着て上品に手を振りながら小走りでやってくる栄子おばあさまが見えた。
「お、おばあさま! 走らないで!」
隣のコンシェルジュであろう背の高い男性は、おばあさまの駈け出しに慣れているのか、慌てず隣をキープしつつ走ってくる。