悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?

「だからね、あの子みたいに貪欲な子を見て欲しかったの。純粋に、素直に何かを欲しいって言えてるの。巧に一目ぼれしちゃってたから、あんな素直な子が現れたら、巧も貴方に素直になるかなって思えたし、貴方もちゃんと欲しいって言えるんじゃないかなって」

「……そうだったんですか」

「結局は不安んにさせて聞きに来たってことは、私の考えが浅はかだったのよ。ようし、食べて出かけましょう」

サンドイッチを千切っていたおばあさまが、口紅が落ちるのも気にせずに頬張りだした。
「出かけるって?」

「公私混同しているタヌキ二人にお説教よ」


ふふふと花のように笑う栄子おばあさまは、綺麗なのに少女のように無邪気だった。

私はその姿とその言葉に、肩の力が抜けた。
急に目の前のサンドイッチの中身がローストビーフで甘いソースが美味しいと感じた。

欲しい、好き、こんな風に泣いて本音を漏らす。

そんな事を素直に見せたことはない。完璧に見せていた私が崩れてしまいそうで見せたことが無かった。

巧が欲しい。
会社としての婚約者としてじゃない。

森元さんみたいに素直になんでも言える人に取られるのだけは嫌だ。

それだけはおばあさまの言葉で分かった。

それは初めて感じる、恋の焦りから来るピリピリした痛みだった。
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