悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
珈琲を飲み干して、エレベーター前まで歩いてボタンを押した瞬間、ポロポロと何かが咳を切ったかのように溢れてきた。
「……志野?」
「ごめっ なんかちょっとやっぱ辛かったみたい」
仕事中だとか、誰かが見てるからとか、そう思うと自分の弱さを見せたくなんてなかったのに。
『あんな素直な子が現れたら、巧も貴方に素直になるかなって思えたし、貴方もちゃんと欲しいって言えるんじゃないかなって』
「志野」
エレベーターが閉められた瞬間、強く、強く抱きしめられた。
巧の体温が好き。
朝、気付いたら隣に居るふてぶてしい巧の、心が温かくなるような体温が好き。
巧の香水の香りが好き。
柑橘系の爽やかで、首筋から香ると色気があって、甘く心を刺激する。
巧の、優しくて力強い腕が好き。
こうやって、ちっぽけな私を簡単に抱きしめてしまえるその大きくて優しい腕が好き。
そして、私の事を誰よりも分かってくれている。
さっき、それが一番強く思えた。
強がってばかりで、情けない私を、――巧が一番隣で見て来たから分かってくれている。
「……俺の前では強がらなくていい」