悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
「おかしいな。お前を慰めようとしたはずなのに、お前の方から言われたか」
クスクスと嬉しそうに巧が笑う。まるで花がほころぶように。
エレベーターの中で、この笑顔を私だけが独り占めできるのだと思ったら、悪役で嬉しいぐらいだ。
誰も私を理解できなくても、私が頑張れる理由。
それが巧の隣だとしたら、私の気持ちは揺らぐ必要無かったんだと思う。
「そういえば、社長が言ってたんだけど」
「ん? 仕事?」
「仕事」
面倒くさそうに巧は言うと、エレベーターのボタンを見つめる。
押そうか押さないか、視線が迷っていた。
「仕事で何?」
「タウンゼント氏とのランチを早々と切りあげてしまったから、埋め合わせに夜に一緒に飲んではいかがと」
「はあ。私と巧は予定あるって言ってるのに」
その予定って言うのは、いつもの居酒屋でご飯なので、もちろん仕事が優先なのは分かっている。
「そうだよな。今は仕事中だけど、ようやく気持ちが通じ合ったんだから」
「え、えっと、まあそうだけど」
「仕事が終わったら、覚悟しとけよ」
口の端を上げて、にやりと巧は言う。
そういう、自信家で強引な部分もきっと私とか、タヌキ二人しか知らない姿なんだろうな。