悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
バス停まで走っていく妹を見ながら、急に喉がカラカラに乾いた。
つまり、親が帰って来るまで巧と二人きりだ。
この前、最後にうちに来た時は、やきもちと告白からキス……だった。
この年で緊張するとか馬鹿じゃないの。
とか自分で自分を笑い飛ばしても、全然笑えない。
「巧、珈琲がいい? 紅茶がいい?」
取繕うように笑顔で巧の方を振り向く。
すると、パタンと玄関が閉まったと同時に再び巧に抱きしめられた。
「え、え?」
混乱する私とは裏腹に、巧が小刻みに震えている。
泣いてるのかと不安になって見上げると、巧は笑いを堪えて震えていた。
時折、ククッと声を漏らしている。
「なんで笑ってるの?」
「や、志野見てると可愛いなと」
「可愛い? はあ? 巧って視力悪くなかったよね?」
今日のダーツバーでの言動を見ていたら、どこを可愛いと言えるのか。
「真野ちゃんが居なくなってから、俺らが二人っきりだって分かった瞬間の緊張の仕方。分かりやす過ぎ」
「笑うことないじゃん! 緊張したのは巧がこの間キスしたからでしょっ」
「ククっ そうだけどさ、いくら俺でもこの家で志野を押し倒すわけないだろ。いつ誰が帰ってくるか分からないのに」