悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
連れ込まれたマンションは、社長に連れ回され忙しかった時に寝る為だけに帰っていたマンションで、元は栄子おばあさまが買ったもの。
会社の近くだからと強制的に副社長が用意したものの、花壇が作れないマンションに住むよりも老人ホームを選択したおばあさまの代わりに巧が買い取ったはず。
が、うちの方がご飯もあるしアイロンもかけて貰えると、ズルズルこっちに来たためにほぼ帰っていない。空気の入れ替えぐらいだと前に聞いていた。
そんな場所へ、真っ赤な薔薇の花に包まれて、鼻孔を薔薇の香りに刺激され二人で向かう。
空に浮かぶ月のようにふわふわした私の覚束ない足取りは、巧の繋いだ手が優しく導いてくれた。
ビターチョコレートみたいな苦みが広がってくる茶色の瞳。
そう思っていた巧の瞳は、チョコレートのように蕩けて甘くて、私の強気で可愛げない行動を優しく包み込む。
瞳で、全身で、態度で、私を好きだと言ってくれる巧を前に、初めてで何をしていいのか分からない私は緊張を和らげていく。