悪役秘書は、シンデレラの夢を見る!?
その笑顔を、是非職場の目が眩んでいる女性社員達に見せてやりたい。
が、一人占めしたいと心の狭い私も叫んでいる。
「本当は、起こしてくれる志野が可愛くて寝たふり結構してたんだよな」
「はあ!?」
「や、本気で眠たいときもあったから安心しろ」
どこに安心できる要素があるの?
腹が立って、カーテンを開けようと立ち上がると、下着姿のままだったことに気付いた。
再び強く枕を巧の顔に押し付けながら、慌ててソファの上にあった、巧が風呂上がりに着ろうとしていたであろうシャツに袖を通した。
その時に、袖に手を通しているとコツンと何かが邪魔をしていた。
「?」
「珈琲飲む? インスタントだけど」
むくりと立ち上がる巧の背中に、私は自分の右手を翳して固まった。
私の薬指に、指輪が嵌っている。
上品で控えめに埋め込まれたダイヤに、力が抜けてベッドに座り込んでしまった。
「巧、これ」
背中を向けたまま、こちらを向かずに巧は言う。
「ああ、昨日の朝、ばあさんに貰った。ばあさんが代々受け継がれてきた指輪らしい」
ケトルのカタカタと沸騰する音と共に、珈琲の香りが立ち込める。
けれど巧は背中を向けたままだ。
「婚約指輪?」