私の王子様は、冷酷なんかじゃありません


いつの間に、こんなに王子の事が好きになっていたんだろう。

学生時代の私にとっての王子は、ただの憧れの人にすぎなくて……


手も届かないような、雲の上の人のような存在だった。


それに、あの頃は王子の事、すっごく王子の事を怖い人だと思っていたし……


でも、行き倒れていたあの日、私は王子に助けられた。

最初はやっぱり怖いなぁって思う事もあったけど、今ではちゃんとわかってる。


王子はとっても優しくて、全然怖くなんかないってこと。


そんな王子に馬鹿みたいにドキドキして、
恋をした。


でも、もうそれも今日で終わり。


「今まで、ありがとうございました」


そう言って、くるりと回れ右をする。

回れ右をして王子に背を向けたのは、
涙をこらえきれなかったから。



「葉月、何後ろむいてるの」

「きっ、気にしないでください」


そういう声が震えないようにするのに精一杯だった。


「葉月、こっち向いて」


「む、無理です!」


王子の鈍感!

馬鹿ぁ!


そう心の中で叫んだ時だった。





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