龍瞳ーその瞳に映るもの
流れたのは沈黙とラジオの音だけ。

ついたのはアズの部屋ではなく
見知らぬ場所にポツンとある倉庫。

潮の匂いがするけれど
ここに来るまでに海は見えなかった。

静かに車は止まる。
だけど、アズが車を降りる気配はなく
運転席に座ったまま。
だから、私もそうした。

「死ぬのは嫌か」

ふいに聞くには相応しくない問いかけ。
そんなもの誰だって嫌に決まっている。

「…嫌」

「じゃあ、人を死なせるのは嫌か」

嫌じゃない人はいるだろうけれど…

「嫌」

私は嫌だ。

聞かれて頭に浮かんだ店長と市原さんの顔。
あの2人がもしも死んでしまっていたら
私は嫌だから。
< 109 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop