龍瞳ーその瞳に映るもの
人が落ちていくのは簡単で
目の前の出来事が現実なのか夢なのか
わからなくなる。

本能のままに乱れた朝、
住み慣れたホテルの部屋のチェアに
梓が座っている気がした。
重い身体と昨夜手に入れた快楽の代償の
半端のない頭痛と吐き気に襲われ
目を開けろと脳が命令しても筋肉が働かない。

もう一度眠りに逃げようとする美緒を
引き止めるのはチェアの人影。

滲む視界を補正しながら
焦点を合わせていく作業が
頭痛を悪化させる。

「ヴッ」

我慢できない吐き気に口を押さえ
衝動的にトイレには駆け込んだ。

そこにいるのは間違いなく梓だった。

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