イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「チームワークというものが仲良しこよしに見えているなら、それは君の勘違いです。
組織というものは、上に立つ絶対的な存在による抑圧から成り立つ。
心をひとつに出来るとすれば、理由はただ一つ。そこに賃金という報酬が存在するからです」

氷川は涼し気に言い放ち、ブラックの缶コーヒーに口を付けた。
対して火に油を注がれたように顔を真っ赤にする市ヶ谷くん。
が、反論する言葉が上手に出てこないらしい。

喧嘩をするには、まだまだ彼は若すぎる。
私は市ヶ谷くんを庇うように立ち、目の前の氷川を睨み付けた。

「氷川さんの物差しで、私たちの労働意義を語らないでくれる?」

氷川の眉が、ぴくりと跳ねた。

「少なくとも私たちは、熱意を持って仕事に取り組んでいるわ。あなたとは違って」

私の言葉に、彼のコーヒーを傾ける手が止まった。
かまわず私は続ける。

「私は、あなたのような、気持ちの入っていない仕事の仕方をする人は嫌い」

――初めて。
氷川の瞳が不愉快そうに揺れるのを見た。
機械のように心を動かさない人だと思っていたから、私の言葉ごときでこの男を不快にさせることができるなんて、正直思わなかったけれど。
どうやら、何か思うところがあったようだ。

それでも、氷川はすぐに冷静な瞳を取り戻した。

「あなたにどう思われても構いません。決断を下すのは上ですから」

つまり、このプレゼンの結果が私たちの勝敗を決めてくれると、そう言いたいんだろう。
望むところだ。

「行こう、市ヶ谷くん」
「は、はい!」

私は市ヶ谷くんを連れ立って、氷川の横をすり抜け、休憩室を出た。
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