イジワル御曹司のギャップに参ってます!
数日後。
クライアント先での再プレゼンを翌日に控えたこの日。
私と市ヶ谷くんは、朝っぱらから平山課長に怒鳴られていた。
「資材がまだ届いていないとはどういうことだね」
椅子から腰を浮かし拳をデスクに叩き付ける平山課長。
こめかみに青筋が立っている。
薄くなった頭に汗の粒が浮き上がり、きらきらと輝いているが、笑っている場合ではない。
現在進行中のプロジェクトにおいて、昨日届くはずだった資材が届かないというトラブルが発生したのだ。
担当したのは市ヶ谷くんで、ひいては彼の上司である私の責任である。
氷川を可愛がっている平山課長は、意外にも氷川とは正反対の性格をしている。
激情家というか、気分のむらが激しいというか、市ヶ谷くんいわく、山頂のお湯(沸点が低いという意味らしい)、あるいは、瞬間湯沸かし器(あっという間にすぐに沸く)とのこと。
とまぁ、軽口はこの辺にしておいて。
「俺にもさっぱり。発注はちゃんと済ませたはずなのですが」
言い訳じみたことを言う市ヶ谷くん。
これはいけない。事実なのかも知れないが、仕事でそれは通用しない。課長の怒りを煽るだけだ。
「申し訳ありません。私の確認漏れです」
咄嗟に庇った私を、市ヶ谷くんが呆然とした瞳で見た。
彼だって庇ってもらいたくなんかないだろう。でも、これはそういう状況だ。
「謝って済む問題じゃない。今日中に調達しなければ。
我が社が原因で遅延が発生し損害賠償にでもなったら大変だ!」
そうだ、この平山課長、氷川と一つだけ似ているところがあった。
リスクと失敗を何より嫌う、うんざりするほどの保守派。