イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「朱石さん!」

突然後ろから腕を掴まれて、ただでさえ足元が覚束ないのに、転びそうになってしまった。
その身体を、再び氷川が抱き留める。

「私は――あなたを馬鹿だなんて思ったことは、一度もありません!」

「今さら何言ってるのよ、いつも散々批難するくせに。私の仕事の仕方が嫌いで仕方ないくせに。目障りだって思ってるんでしょう!?」

「思っていません!」

「嘘ばっかり! 青山さんみたいな、従順で真面目な子が好きなんじゃない!」

「なっ――なんで青山さんが出てくるんですか!? 何のことを言っているんです!?」

「もういい! 放っといて!」

私は氷川の腕を乱暴に振り払って、会議室を飛び出そうとする。

けれど、氷川の長い腕が、私の身体を絡めとる。

後ろへ強く肩を引かれて、倒れ込んだ先に氷川の胸があった。

「朱石さん、聞いてください! 私は……俺は……」

暴れる私の身体を胸元でしっかりと受け止めて。
上から見下ろす氷川の瞳は、なんだか今にも泣きだしそうで。

どうして彼がそんな目をするのだろう。さっぱり分からない。

「離してっ!」

彼の腕の隙間をすり抜けて、私は会議室の出口の前に立った。

「もう、いちいち触らないでよ! ずっと嫌だったの、あなたに触れられるのが! もう二度と、私に触れないで!」
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