イジワル御曹司のギャップに参ってます!
あれから、空っぽな仕事ぶりをしていた。

だって、頑張ってもマイナスならば。
私の努力は物事を悪い方向にしか押し進められないというならば。
もう何もやらない方が、自分のためであり他人のためだろう。

無難が一番。平凡が一番。

氷川がこれまで散々、繰り返し忠告し続けてくれていた『リスク』。
その恐ろしさが、今さらながらに、嫌っていう程身に染みる。

今までの私って、ものすごく危ない橋を渡り続けていたんだなぁ。

かつて、氷川もこれを身に染みて感じたのだろうか。
『村正さん』という、尊敬する上司の失脚を、どんな思いで見届けたのだろう。


ここ最近の、無難――いや、それ以下ともいえる仕事ぶりを見て、さすがの市ヶ谷くんも心配に瞳を曇らせた。

「大丈夫ですか、朱石先輩……なんか最近――」

これで何度目の質問だろうか。
デスクのモニターに向かっておとなしくキーボードを叩き続ける私を、市ヶ谷くんが覗き込んできた。

「うん。平気。気にしないで」

目をモニターに向けたまま、やる気なく答えた私に、市ヶ谷くんはいっそう表情を暗くする。
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