イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「朱石さん」

不意に背中から呼びかけられて、私はのんびりと振り返った。

声でなんとなく分かっていたのだけれど、そこにいたのは氷川で、眉を少しだけ歪め、まるで憐れなものでも見るかのような瞳で立っていた。

「何?」

「少し――」

よろしいでしょうか? と言いたいのだろうか? お葬式のような顔で何かを訴えている。
はっきりと言えばいいのに。最後まで言葉を出すのが躊躇われるほど、私のことが気の毒に見えているのだろうか。

「はい」

静かに答えて、私は氷川のあとに着いて行った。



オフィスの外れにある、小さな会議室。
誰もいない静かすぎるその部屋で、氷川は座ることもせずに淡々と話を始めた。

「『ジュエルコスメ』アニバーサリー企画の件……今後の方針がようやく決まったそうです」

「そう……」

気のない返事をした私を無関心と判断したのか、不服そうに眉を歪める氷川。

「気にならないのですか?」

「気にしても仕方がないから」

正直に答えた私に、氷川は瞳を険しくさせた。
そこに宿るものは嘆きだろうか、失望だろうか。
< 149 / 227 >

この作品をシェア

pagetop