イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「酷いのはどっちですか」
先に口を開いたのは市ヶ谷くんだった。
「朱石先輩をこんな顔にして。もう、彼女にちょっかい出さないでください」


「ちょっかい――ねぇ」


市ヶ谷くんの言葉に流星は、くっくっく、と含み笑いを浮かべる。


「一応これでも、いろいろと考えて接してきたつもりだったんだけれど……」
流星は整った髪を掻き上げて、もう身なりなどどうでもいいというように、くしゃくしゃに乱した。
「ははっ、なんだかもう、馬鹿らしくなってきたよ。あははは――」

まるで気が触れてしまったかのよう。
流星はお腹を抱えて笑いだす。
得体の知れない不安を感じさせるような、狂気的な笑い声。

「ああ、もう、本当に。あなたは俺を失望させるね」

ひとしきり笑ったあと、流星の瞳がぎらりと輝いた。
腹の奥底で人知れず何かを企んでいるような、邪悪ともいえる不敵な笑みを浮かべる。

「傷ついている人に向かって、失望しただなんて! 本当に氷川さんは人の心を分かっていない人ですね!」

私を庇うように抱きすくめ、怒鳴る市ヶ谷くん。
しかし非難の声を無視して、流星は私の正面に立ち、見下ろした。

「それで? いつまでいじけているんだ、あなたは」

市ヶ谷くんの腕の中にいる私の顎に、挑発的に指をかけて、視線を自分の元へ持ち上げる。

「男といちゃついてる前に、出来ることがあるでしょう?」
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