イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「触るな!」

市ヶ谷くんが私の身体を引き寄せて、自分の背中に隠す。
かまわず続ける流星。

「一回の挫折で諦めるのか。あなたの覚悟ってその程度だったんだね。
『新しいものを創り上げたい』だって? 散々俺に偉そうなこと言っておいて、がっかりだ」

「もういい加減にしてください!」

私の代わりに市ヶ谷くんが吠える。が、流星の弾劾は止まらない。

「結局あなたにとっての仕事は、単なる娯楽に過ぎなかったようだね。
ちょっと風当りが強くなったら、はい、次って、乗り換えちゃうわけだ。
それとも、仕事なんかより、可愛い後輩に優しくされてた方が満足?」

流星の口元に、ヒーローアニメの悪役みたいな憎たらしい笑みが浮かぶ。
私を見下す瞳が、言葉以上に私を罵っていた。

私だって好きでこんな状況に陥ったわけじゃない。
できることなら、プロジェクトを完遂したかった。
けれど、出来ないものは仕方ないじゃないか。
一番苦しんでいるのは私なのに。好き勝手言われて。あなたに何が分かるっていうんだ。

「――何も知らないくせに!」
悔しくて、瞳に涙が滲んで、堪えながら私は奥歯を噛み絞めた。
私を庇ってくれている市ヶ谷くんの腕を振り切って、前に出た私は目の前の流星を睨み付ける。
「好き勝手言わないで! 人の気も知らないで――」


「口答えするなよ」

冷え冷えとした声が空気を震わせて、私はびくりと肩を竦ませた。
私だけじゃない。市ヶ谷くんまでも、流星の放つ威圧感に一瞬身を固くする。

「俺に歯向かって許されるのは、諦めを知らない『朱石光子』だけだ。今のあなたじゃない」

「……っ!」
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