イジワル御曹司のギャップに参ってます!
第八章 たとえどんなに見苦しくとも
***


「いやぁ、ちょっと、こんなところでそんな、やめてくださいよっ……!」

腰を九十度に曲げて頭を下げた私と流星を前にして、『ジュエルコスメ』広報担当の相模さんはわたわたと慌てふためいた。


大手化粧品メーカー『ジュエルコスメ』の自社ビル、一階ロビーにて。

アポイントも無しに乗り込んできた私たちに、受付の担当者も困惑していた。
待合スペースで待たせてもらい、二十分ほど経った頃か。連絡を受けた相模さんが何事かと飛んできた。

社員や来客が多く行き交うロビーの脇で、出会った早々「申し訳ありませんでした!!」と深々と謝罪を始めた私たちに。
焦り戸惑う相模さんの反応は至極当たり前だと思う。


「だいたい、この件はもう片付いたはずじゃありませんでしたかねー……」

「一度、直接本人から謝罪させていただきたく――」

「謝罪なら、御社の営業の方や小野田さんから散々していただきましたから――」

勘弁してくれとばかりに私たちをなだめる相模さん。
そもそも彼は、今回の件に関して、それほど気を悪くしていないようだ。
――というよりもむしろ、思いもよらぬ大事に発展してしまい、申し訳ないと感じているみたいだった。

「こちらこそ、大騒ぎして申し訳ありませんでした。どうも社長はその手のことに敏感で」

小声で謝る相模さんはひょっとしたら、社長の強硬に辟易しているクチなのかもしれない。

「どうか、社長に直接謝罪させていただくことはできませんか?」

「いやー、それは難しいですねー。何しろあの人、頑固だから」

「そこをなんとか、お願いします!」

「いやいやいや――」

相模さん自身も取り次ぐのが面倒くさいのだろう。
しばらくの間粘ってみたけれど、社長に謝らせてもらうことは叶わなかった。
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