イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「ダメだったわね」
「予想通り。そうそう上手くいくわけがないよ」
あれから相模さんに強引にお引き取りくださいされた私と流星は、帰社すべく駅までの道のりを歩いていた。
アポなし訪問の結果――『惨敗』に、さも当然と、流星は表情を涼しくさせる。
『氷川』と『流星』は別人のようだけれど、こういう淡々としたところには各々の面影を感じさせる。
「これで諦めたなんて、言わないでね。社長にお目通りが叶うまで、毎日行くよ」
流星が歩道を歩きながら、冷ややかな瞳で私のおでこを一突きした。
「ま、毎日……?」
「当たり前でしょ。しつこいくらいじゃなきゃ、誠意なんか伝わらないよ」
「ごもっともで……」
私は突かれたおでこをさすりながら、渋い顔で頷いた。
腑に落ちないのは、どうして流星がわざわざ私の謝罪行脚に付き合ってくれるのか。
いつもスマートに、目標へ向かって最短距離を進む『氷川』。
人は『諦める』という選択肢を選ぶときに躊躇するものだけれど、彼の中での『諦める』はその他の選択肢と同列で、時と場合によっては切り捨てることも辞さないという冷徹さの表れだ。
だから、私のことなんて、こだわる必要もないのに。
どうしてこんな見苦しい真似を許してくれるのだろうか。