イジワル御曹司のギャップに参ってます!
一旦帰社して仕事を片付けたのち。
夜の九時過ぎ、私と流星は『ジュエルコスメ』本社へ向けて会社を出発した。
着いたのは、予定時刻の十時より十五分ほど前。
流星は正面玄関をスルーして(そもそもこんな時刻に正面玄関は空いていなかった)駐車場の出口のある裏手にやってきた。

「じゃあ、これ着て」

流星はビジネスバッグの中から折りたたまれた白い布地を取り出して、私へ差し出した。

「何、これ?」

手に取って広げたところで、それが何なのかはすぐに分かった。
だが、なぜこんなものを渡されたのだろう、私は沈黙する。

「見て分かんない? 白衣だよ」

「……それは分かるけど」

「早く、着て」

お医者さんが着る真っ白なあれを羽織らされて、駐車場のゲートバーを出たところの、道路脇に立つように指示された。
流星は、駐車場出口のど真ん中――今、車が来たら絶対に轢かれるであろう場所に立って、私の方を眺める。

「うーん、あと三歩手前。もう少し左、そうそう、そこでストップ」

「何してるんですか?」

「位置の調整。うん、その場所、しっかり覚えておいて」

「この場所に、一体何が……?」

流星は腕時計を見ながら、そろそろかな、と漏らした。
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