イジワル御曹司のギャップに参ってます!



謝罪行脚から十日が経つ頃。
毎日の訪問にさすがの『ジュエルコスメ』広報相模さんも付き合いきれなくなってきたようだ。まぁ、忙しい人なので当たり前だろう。
相模さんの代わりに、部下の伊藤さんがロビーで私たちを出迎えてくれることが多くなった。

もはや流星も、会議だ、打ち合わせだ、と会社を出れない日が増えてきて、最終的には、私一人が『ジュエルコスメ』の受付にやってきて伊藤さんを呼び出し、お詫びの品を渡して帰るだけの構図が出来上がってしまった。

それでも流星は、毎日手を変え品を変え、様々なお詫びの品を用意してくれて、京都の羊羹だとか函館の塩辛だとか滋賀の牛筋の煮込みだとか、一体社長の好みの情報をどこから仕入れてくるのだろう、相変わらず謎めいている。


二十日経つ頃には、『ジュエルコスメ』伊藤さんと私の絆は深まり、謝罪の前に一緒に昼ご飯を食べに行く仲になった。なんだかそれもおかしな話だけれど。
伊藤さんは私と同世代の女の子だ。
上司である相模さんに無理難題を押し付けられ、日々ストレスを貯めているという。
『ジュエルコスメ』本社ビル近くにある美味しい定食屋さんなんかを紹介してもらいながら、同じ会社の人間には打ち明けられないような愚痴をお互い吐き出し合って発散する、そんな日課ができてしまった。
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