イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「ふ、ふざけないでよ!」

去って行ってしまった扉の向こうに向かって、無駄だと知りつつも文句を叫ぶ。
横にいた青山さんが、明らかに不愉快そうな顔でこちらを睨んだのが分かった。

「朱石さん、あなた、氷川さんに何をしたんですか!?」

「は?」

突然怒りの矛先を向けられ、思わず一歩後ろに下がる私。
そんな私を追いかけて、詰め寄ってくる青山さん。
普段、感情の起伏の少ない彼女の怒った姿は、結構怖い。

「朱石さんのせいです! 氷川さんが眼鏡を取っちゃったのも、こんな無茶なことをするようになったのも!」

「ちょ、ちょっと待って、眼鏡と私と、何の関係があるの!?」

青山さんが先ほどからこだわっている『眼鏡の有無』。それが一体何を示しているのか分からなくて、返答のしようもない。

青山さんは私を睨みつけながら、ギリッと唇を噛みしめた。
悔しいような、歯がゆいような、純粋な彼女だからこそ真っ直ぐに表すことのできる負の感情。

やがて青山さんは諦めるかのように私から視線を外した。
ぽつりぽつり、その怒りの理由について、語り始める。

「氷川さんの眼鏡に度が入っていないこと、知っていますか?」

「え、ええ。女避けだって言ってたけど」

「もう一つ、大きな意味があるんです」

わずかに沈黙したあと、青山さんは躊躇いがちに口を開く。
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