イジワル御曹司のギャップに参ってます!
これは、自身への戒めでもある。
今さら出来ないなんて根を上げることは許されない。
もう、どんな苦境に立たされても逃げることなどしない。
この企画のために、『ジュエルコスメ』のために、自分のために、全てを捧げるという決意。

社長が、ふと視線を伏せた。
数秒間、まるで深く何かを熟考するかのように目を閉じる。

やがて目を開いた社長が、視線を私の背後へと向けた。

「――それで。そこでこそこそしている君はどう考えているんだね」

私が驚いて振り返ると、建物と植込みの陰から、一人の長身の男性が姿を見せた。

「流星!」

一体いつの間にそこにいたのか。てっきり来ないものだと思っていたのに。
そして驚いたのは私だけではなく、社長の隣で傘を支えていた秘書課の女性も、ハッと口元を押さえた。


「こんな形になってしまい、申し訳ありません、社長」

流星は物陰を出て私の隣までやってくると、深々と頭を下げた。
随分と長い間そこに隠れていたのだろう。流星の身体も髪も雨に濡れすっかりびしょびしょになっていた。

「現在の現場責任者は君だろう。君はどう思うんだ。彼女の言っていることは正しいのか」

上辺だけの返答は許さない、そんな鋭い視線が流星へと注がれる。

流星は、何と答える?
私は流星の横顔を見上げて息を潜める。
そもそも彼は、コラボレーション企画について反対だったのだ。
正しいのかと問われれば、NOと答える可能性だって十分にある。
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