イジワル御曹司のギャップに参ってます!
雨が次第に強くなり、雫が頬を滑り落ちるも気にすることなく、流星は一心に社長を見つめていた。
まるで、目を逸らした方が負けだとでもいうように。

その瞳は、『氷川』が宿っているかのように、鋭く厳しい。
あるいは、今やっと『流星』という人格と『氷川』という人格がひとつに結びついたのかもしれない。
なんだか夢を見ているみたいだ。彼が、『氷川』が、私のことを庇うなんて。背中を押してくれるなんて。
一つの目標に向かって、共に戦うことができるなんて。

生意気な態度を取る若造に、新藤社長は短く唸り、不愉快そうな顔をした。

「貴様らの芝居がかった口上にはうんざりだ」

どすの効いた声に、場の空気がびりびりと震えた。
まるで、首元にナイフを突きつけられたみたいに、私たちの身体はいっそう緊張で引き締まる。
説得は、社長の心を震わせることができなかったのだろうか。

私と流星の心に、じんわりと絶望が広がり始めた、そのとき。


「次の打ち合わせまでに、私が納得のいくものを用意してこい」

低い声で、新藤社長が私たちへ告げた。
返答も待たずに、くるりと踵を返し、元来た車の方へと歩き出す。
隣にいた秘書が、社長の身体を傘からはみ出させぬよう、慌てて後を追う。

目を見張る私と流星。

新藤社長は、これ以上私たちの方を振り返ることはしなかった。
静かに車の後部座席へと乗り込み、それきりだった。
秘書だけが困惑した様子でこちらをちらちらと覗き見ながら(たぶん流星の様子が気になっていただけだと思うが)社長に続く。

やがて、静かな音を立てて新藤社長を乗せた車は走り去っていった。
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