イジワル御曹司のギャップに参ってます!
全てを投げ出したくなったあのとき。
流星がいてくれなかったら、叱ってくれなかったら、立ち戻ることは出来なかっただろう。
歩けなくなってしまった私を、無理やり引きずってでもここまで連れてきてくれたから、辿り着くことができたのだ。

ありがとう、ありがとう、とたくさん叫び出したい気分。
でもきっとそれだけじゃ伝わりきれないだろう。

私が今、流星へ抱いているこの感情は、仕事を助けてくれたからありがとうというような、単純なものではない気がする。

「俺は背中を押しただけだ。あなただから成功した。あなたじゃなかったら、社長の意志を変えることはできなかった」

「そういうことを言っているんじゃないの」

私が伝えたい『ありがとう』は……もっとこう――

言葉を選んでいる間に、彼の腕が私の背中へと周り、私の唇は彼の胸の中に押し込まれ、何も言えなくなった。

「ほら、このままじゃ風邪ひくよ。俺もあなたも。早く帰ろう」

「うん……」

こんなにも誰かの腕の中にいることが嬉しいと感じたのは初めてだった。
ずっとこのままでいたくなる。離して欲しくないと感じている。
このまま身体と身体がぴったりとくっついて、離れなくなってしまえばいいのにとさえ思う。

「とはいえ、こんな格好のあなたを一人で帰すわけにはいかないから――」
流星が、うつむく私を覗き込む。
「俺の家で、いい?」

ちらりと上目遣いで見上げた先に、なんだか妖艶な口元があって、まるでその先の何かを匂わすように、怪しげで魅惑的だった。
ドキドキとしながら小さくこくりと頷くと、彼も少しはにかむように笑った。
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