イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「あのときの俺には、落ち込んでいる朱石先輩を叱るなんて、考えられませんでした。
心のどこかで、嫌われたくないって思っていたんだと思います。
でもそれを恐れず出来るのが、人として――男としてのレベルの差なんだなって。
悔しいけれど、流星さんには完敗って感じです」

「それで、懐いちゃったの?」

「尊敬しています」

市ヶ谷くんが瞳キラキラビームで答える。

「男に懐かれる趣味はないんだけどねー」
ちょっと遠いところから流星の面倒くさそうな突っ込みの声が入った。

「あ、でも誤解しないでください! 朱石先輩を諦めたわけじゃありませんから!」
突然拳に力を入れて、ガッツポーズを取る市ヶ谷くん。
「一段上の男になって、流星さんを超えて、必ず迎えに行きますから! 待っててください、朱石先輩!」

「は、はぁ……」

「待たなくていいからー。それから、俺を超えるとか十年早いからー」
再び横から、どことなく適当な突っ込みの声が入った。

どう答えればいいか思い悩んでいると、不意に着ていたシャツを背中から引っ張られた。

振り向いた先に立っていたのは青山さん。眉間に皺を寄せて、ちょっと怖い顔をして佇んでいる。

「……私も、まだ諦めたわけじゃありませんから」

「え、ええと……」

宣戦布告の眼力に圧倒されて、困惑していると。


「朱石くん、ちょっといいかね」

後ろから貫禄のある声が飛んできて、私は慌てて振り向いた。
小野田部長だ。
窮地に通りがかった助け船とばかりに、私はホッと胸を撫で下ろす。
取り敢えずこの場から逃げられれば、何でもいい。

「はい、なんでしょう」

「すまないが、少し時間をもらえるか」

「分かりました」

私は小野田部長のあとに続いて、オフィスの端にある少人数向けの会議スペースへと向かった。
< 213 / 227 >

この作品をシェア

pagetop