イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「お言葉ですが、小野田部長……」
私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら口を開く。
「私の力ではないんです。
全部、氷川さんが裏で手を回してくれていたお陰なんです。
ですから、昇進するのなら、私ではなく、氷川さんが適任ではないかと」
功績を称えるべき相手は、流星だろう。
私は当初から彼の立てた計画の通りに動いていただけなのだから。
「むぅ……」
小野田部長が難しい声で唸った。
「だがな朱石くん。君を推薦したのは、他ならない、氷川くんなのだ」
「は?」
予想だにしていなかった一言に、私は再び声を裏返らせる。
小野田部長は私へ打ち明けるべきか、逡巡しているようだった。悩んだあげく、渋い顔で口を開く。
「朱石くんと同じくマネージャー候補に上がっていた氷川くんなのだが、先日、昇進を辞退する旨の意思表示があった。
『上に立つなら自分よりも朱石さんの方が相応しい』という理由だそうだ」
「な、何故……」
「さて、何故だろうな。」
腕を組んで遠い先を見据える小野田部長。
「朱石くんも氷川くんも、まだまだ発展途上。どちらかを選ぶことに正解など存在せんよ。
だが氷川くん自身にとっては、自分にはなく朱石くんにはある『上に立つ資質』なるものを、見い出しているのかもしれんな」