イジワル御曹司のギャップに参ってます!
――『上に立つ資質』、そんなものが流星には見えているのだろうか。
かつて私が出世したいと考えていたのは、なんてことはない、『氷川』に負けたくないだとか、仕事を認めてもらいたいだとか、実に自分勝手な理由からだった。
誰が上に立てば周囲の人のためになるか、そんな観点で考えたことはない。

納得のいかない顔で思案する私。
小野田部長にとって、部下が試行錯誤する姿は微笑ましく見えるようだ。懐を広くして私を眺める。

「本人に直接聞いてみたらどうだね。
最近の彼は、昔と比べて随分と変わったようだし、もう君をむやみに遠ざけたりせんだろう」

さすが小野田部長、社員の心境の変化もしっかりと気に掛けているようだ。
まぁ流星の場合は、ガラリと百八十度、人が変わってしまったから、気が付かない方がおかしいのかもしれないが。

「……小野田部長は、氷川さんの変化をどう思いますか?」

「うむ。肩の力が抜けて、柔軟になったようだな。表情も柔らかくなった。
だが、少し残念でもある。かつての真面目さや過度なくらいの堅さが彼の個性であり魅力だったのも事実だ」

かつて流星は言っていた。『氷川』という存在が、今この会社に求められている人材なのだと。
あるがままの流星は、生き生きと働いていて清々しい。だが、失われた『氷川』という存在が、惜しいという人もいる。

彼にとっては、どちらの彼でいることが幸せなのだろうか。
私にとっては――


「ありがとうございます。小野田部長」

私は部長へ一礼したあと、息つく暇もなく背を向ける。
流星へ、直接聞きたいことが山ほどあった。

「納得しに、行ってきます!」

そう告げて私は会議室を出た。
去り際の私を見送る小野田部長の表情はなんだか満足げで、子どもたちの成長を見守る父親のような慈愛に満ちた眼差しをしていた。
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