イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「どうしたの?」
私が慌てて駆け寄ると、市ヶ谷くんは電話機の保留ボタンを押しながら、大きなため息をついた。

「別件なんですが、背景セットのイメージが事前の打ち合わせと違っているというクレームがあって」

「ひょっとして、明日撮影のやつ?」

「ええ。今から変更は無理ですとお話はしたんですが、なかなか折れてくれなくて」

市ヶ谷くんが困った顔で愚痴混じりに肩を竦めた。

今回クレームをつけてきたクライアントは、直前になって気が変わったり、あっさりと意見をひっくり返したり、確かになかなかの曲者なのだ。
事前に綿密な打ち合わせを行っているにも関わらず、後戻りできない場面で悪びれもなく無茶を言う。この案件の前の担当者も「酷い目にあった」と愚痴をこぼしていたくらいだ。

市ヶ谷くんが相手をするには、少々骨の折れる相手だ。どのみち『責任者を出せ』と言ってくるだろうから、今から私が出ておいても変わらないか。

「電話、貸してくれる?」

私は市ヶ谷くんから受話器を引き継いでもらった。

氷川の真面目さや堅さが特徴であり魅力であるというのなら、私がすぐ後輩に手を差し伸べてしまうのも、メリットでありデメリットであるのかもしれない。
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