イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「ちゃんと、ですか?」

「ちゃんと、だよ。具体的に、はっきりと。そういうの、得意でしょ?」

「……」

氷川は迷うように、視線を漂わせた。
合理的ではっきりとした性格のくせに、自分の気持ちを表すときだけはどうしてそんなに濁すのだろう。

「例えば、私とあなただったら、どちらを上司に持ちたいでしょうか」
氷川は観念したかのように、ぽつりぽつりと呟き始めた。
「市ヶ谷くんなら、あなたを選ぶでしょう。いえ、彼だけではない。大半の人間がそう思うはずです」

いつも沈着冷静、淀みのない論述を繰り広げる彼からは想像もつかないほどに、たどたどしい言葉運びだった。
「あなたが他人から愛されるのは、きっと天性の資質です。もしくは、あなたを取り巻く環境が、そういう風に育てあげたのでしょう。
いずれにしても、私には無い能力です。
単に仕事ができるだけの人間なら、いくらでもいる。
けれど、上の立場に立って本当の力を発揮できるのは、そういった限られた人間です。
私は、あなたこそ相応しいと思う」

まるで言葉を覚えたばかりの子どものように、ひとつひとつ、丁寧に、単語を噛みしめていく。
そのフレーズが私の頭の中で、しっかりと刻み付けられる。

「あなたは、それでいいの……?」

「かまいません」

迷わずに言った氷川が、私の右手にそっと手を伸ばし、両の手で、しっかりと包み込む。

「だからせめて、あなたの隣で支えさせてください」
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