イジワル御曹司のギャップに参ってます!
懇願するように、彼は私へ告げた。
私の手をぎゅっと握る姿は、なんだか心細そうに見えて、生まれて初めて氷川に対して『愛おしい』という感情が湧いた。

「あなたをそばで支え続ける上で、今の私でいることが一番だと判断しました。
私がしっかりとあなたを引き締めないと、このままでは部署が破綻する」

ん、ちょっと待て。

「……褒めてるの? けなしてるの?」

「あなたの駄目なところも、良いところも、すべて愛していると言っています」

まるで事務仕事をしているかのような仏頂面で、真面目を絵に描いたような実直な瞳で。
びっくりするほどの情熱的な台詞が氷川の口から零れ落ちて、思わず私は頬を熱くする。


「あなたは、私を受け入れてくれますか?」

彼が淡々とした口調で私に問いかけてくる。

けれどその裏に見えるのは、不安。
結局彼は、強がりで、なのに本当は臆病で、そのくせ甘えることも上手じゃなくて、実はすごく不器用な人なのかも知れない。

冷徹な『氷川』も柔軟な『流星』も変わらない、一人の人間の中の二つの素顔。
以前の私は、氷川に対して拒否反応を示していたけれど、今の私は知っている。どちらの彼にしたって、私を想ってくれていることには変わりない。

「わかった」

私が静かに頷くと、彼は安心したのだろうか、そっと私の手を離した。
ふっと、氷川の口元が柔らかくなった気がする。
ひょっとして、笑ったのだろうか。安心して、口元を綻ばせたのだろうか。
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