イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「だ、大丈夫だから!!」

私は慌てて彼の傘から逃げ出した。

ビルの陰から飛び出してしまったせいで、頭上から打ち付ける強い雨がダイレクトに私を濡らしていった。
あっという間に全身を冷やりとした水の重みが包む。

一方、私に大袈裟なリアクションで嫌がられた氷川は、目をぱちくりさせていた。

「っ全然大丈夫じゃないでしょう! ほら濡れている、早く入ってください!」

「い、いい、これくらい平気!」

「じゃあ、これを」

氷川が傘の持ち手を私の方へ差し出した。
今度は氷川の身体が傘からはみ出して、あっという間にスーツがびしょびしょになる。

「一緒に入るのが嫌なら、あなたが使ってください」

「な、なんで……?」

「あなただけ濡らすわけにはいかないでしょう」
うんざりとした顔で氷川が言った。
「私のことをどんな人間だと思っているか知りませんけれど。
雨の中、傘を差さずに濡れている女性をなんとも思わないほど冷たい人間ではないんですよ」

不機嫌に優しいことを言う彼に、私の頭は混乱する。
嘘みたいに親切だ。何か企んでいるのではないかと疑ってしまう。

とはいえ私だって、大雨の中、自分だけ傘に入ろうとするような人間じゃないよ。
かといって、彼と仲良く相合傘は――できない。

『やりたくない』んじゃない。やりたくても、『できない』のだ。
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