イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「本当に、必要ないから!」

私は逃げるようにその場を飛び出した。
「朱石さん!」私の名を呼ぶ彼の静止を振り切って、オフィス街、道行く人の群れをすり抜け、ひた走る。

さすがに彼だって、走る私を追いかけてきたリはしないだろう。
が、信号にぶつかって止まることを余儀なくされ、そこにあっさりと傘を持った氷川が追いついてきた。

「なんで逃げるんですか!」
「ついてこないで!」

あまりにも強情な私の態度に、さすがの氷川も口元をひくつかせる。

「……素直に受け取ればいいものを。全く、可愛げのない人ですね、あなたは」

「か、可愛いなんて思われなくて結構! 余計なお世話だから! 放っておいて!」

親切を余計なお世話とまで言われ、さすがの氷川も沈黙した。
ふう、と小さく嘆息し、口の端を厭味ったらしく上げる。
呆れているのかと思いきや――

「あなたって、本当に私のことが嫌いなんですね」

それは自嘲。
落胆を含んだ、悲しい笑み。寂し気な瞳。

あ……

私の胸の奥が、ずきっと揺れた。

もしかして、傷ついた?



次の瞬間。

背後から強い光が射した。
鋭いクラクションの音。

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