イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「危ない!」

私が立っていた横断歩道ぎりぎりのところを、猛スピードの車が駆け抜ける。
すんでのところで私の腕を掴み取った氷川が、自分の元へと引き寄せた。

「きゃっ!」

勢いのまま胸元に衝突してきた私を、氷川がしっかりと抱きとめる。

彼の手にしていた傘が小さな音を立てて地面へと転がり落ちた。
私たちは抱き合った姿勢のまま、強い雨に晒される。

全身に打ち付ける雨の冷たさが痛い。それ以上に、彼の腕が温かくて優しい。


「……大丈夫ですか?」


頭の上から声がして、止まっていた思考が動き出した。
私の頬に触れる彼の胸。少し硬くて、思った以上に逞しい。
耳を震わす鼓動の音は私のものか、それとも彼か。
私と彼のその距離、ただいまゼロセンチ。


いやぁぁぁぁぁぁ! 放してぇぇぇ!!


と、叫ぶことさえもできなくて、私は身体を固まらせた。
抱きすくめられたまま、うつむいて、何も出来ず、ただ彼が手を放してくれるのを待つ。

――嫌だ――

今にも全身が震えだしそうだった。彼に悟られないように、息をひそめて押し殺す。


普段は強気の私だけれど、ひとつだけ、誰にも言えない弱点がある。


――実は私、男性が怖いのだ。

触られると、ダメなのだ。
< 28 / 227 >

この作品をシェア

pagetop