イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「まずシャワーを。タオルと代わりの服は用意しておくので」

そう言って氷川は、濡れねずみの私をバスルームへと押し込めた。

言われた通り、冷え切った身体をシャワーで温め、彼のものであろうダボダボのシャツとパンツに身体を包む。
ブラがびしょびしょで着けられないのには絶望的な気分になった。
ノーブラで男性の家をうろうろしていいものだろうか。
それでも、アンダー側の下着は雨の被害を受けておらず、不幸中の幸いといったところか。

締め付けるものを失い不安定になった胸がバレないように手を身体の前でクロスさせ、恐る恐るバスルームを出た。
廊下の先にあるリビングを覗くと、すでにスーツを脱いで私服に着替えた氷川がキッチンに立っていて、首には白いタオル、髪からはまだ雨の雫が滴っていた。
トレードマークの眼鏡も今はしていない。

キッチンカウンターの奥から、彼がちらりとこちらを覗いた。

「服、大丈夫? 」

「……ゆるい」

「でしょうね。しばらくそれで我慢して」

彼がキッチンから出てきて、湯気の立つティーカップを二つ、ソファの前にあるローテーブルへと運んだ。

「楽にしてて」

ソファに私を促しながら柔らかく微笑んだ彼は、なんだか別人のようで、私はほうっと惚けてしまう。

眼鏡をかけていないからだろうか。それとも私服だから? なんだか違和感がする。
冷徹で、生意気で、見ているだけで苛々するはずの彼なのに。
柔らかくて、優しそうで、ずっと見つめていたくなるような美しいシルエット。
いつもと違うその印象に、さっきとは違った意味で鼓動が少しだけ早くなる。

私の知っている氷川と目の前の『彼』が結びつかない。
私は落ち着きなくそわそわと自分の肩をさすった。
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