イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「どこまで馬鹿にすれば気が済むのよっ!」

思わず私は叫んでいた。氷川が心外だなあという顔で目をぱちくりする。

「誉めてるんだけど?」

「どこがよ!」

馬鹿にする以外に、可愛いなんて単語の使い道がどこにあるって言うんだ。

膨れっ面で背中を向けると。

「普段はバリバリ仕事してるあなたが、実は運命とか神様とか信じてる感じ。
なんだか女の子っぽくてちょっと意外で、可愛いらしいじゃない」

可愛いの使い道について律儀に答えてきた彼。
ちらりと振り向いた先に、悪意のない柔らかな笑みがあって、ぎょっとする。

私の知る氷川は、こんな顔しないはずだし、女の子へ向けて『可愛い』なんて単語を軽々しく使うようなやつじゃあない。

戸惑う私の肩に、そっと彼が手を伸ばす。

「誉めたんだから、もう少し嬉しそうな顔してよ。ほら、俺の方向いて」

ふいに、氷川の手が伸びてきて、私の顎をすくい上げた。
持ち上げられた顔の目の前に、端正な顔と、眩暈がするほど甘い表情がある。

今日、呼吸を忘れたのは何度目だろう。
気が動転し過ぎて、膝の力が抜けた。よろけて、ソファの上に崩れ落ちる。

「おっと、大丈夫?」

氷川が私の背に手を回し、支えようとしてくれる。
けれど。

「さ、触らないで!」

咄嗟に私はその手を弾いてしまった。
氷川が驚きに目を見開いて、動きを止める。
ゆっくりと三歩、後ろに下がり、私と距離を取った。
< 35 / 227 >

この作品をシェア

pagetop