イジワル御曹司のギャップに参ってます!
限界だった。
張り詰めた弦が切れるかのように、表面張力でぎりぎり保っていたコップの水が溢れ出すように。

私の瞳が、大粒の涙を溢し始めた。

それを見た氷川の指が、動きを止める。


「……泣くのは、反則だろう」

しまった、という顔だった。
氷川は私から手を離し、そっと立ち上がる。もうしません、とでもアピールするように。
手を上にして降参のポーズを取るも未だ泣き続ける私を見て、「わかった、わかったから」ちょっと焦ったように決まりの悪そうな顔をする。
数歩下がって私と距離を置き――

「……ごめん。やり過ぎた」

やっと氷川は申し訳なさそうな顔をした。

「ご、ごめんっ……て――」

まだ走り続ける鼓動と荒くなった吐息で、私は絶え絶えに叫んだ。

「謝って、済む、問題じゃ……っ!」

彼の身体が離れてちょっと強気になった私は、それでもぼろぼろと溢れる涙は急には止まらなくて、手の甲で瞳を拭いながら声を荒げる。

うっ、ひくっ、っと嗚咽を漏らしていると、氷川はちょっと苛々としながら

「そんなに嫌なら、もっと怒鳴るなり暴れるなりしてくれればよかったのに。
無抵抗だったら、誰だって勘違いするだろう。
毎日俺に歯向かってくる威勢の良さはどこへ行ったのさ」

もはやこれでは逆ギレだ、なんだか言い訳じみた文句で責めてきた。
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