イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「――あなたこそ昼間とは別人じゃない!
女性に興味なんて無さそうな顔して、襲ってくるなんて!」

「言いがかりだよ。仕事中に女性に興味がある顔なんて出来ると思う?」

「じゃ、じゃあ、敬語は!? あと、眼鏡も! どこに行っちゃったのよ!」

違和感の正体にやっと気がついた。
普段は嫌味なほど丁寧な敬語が、どこかへ消えてしまっている。
それから眼鏡も一向にかける様子がない。
この二つが欠けてしまった氷川は、なんだか別人みたいで、どう接したらよいのか分からなくなる。

「仕事とプライベートは違うって、さっきあなたが言ったんでしょう」

さらりと交わされて私はうっと呻きを漏らす。
減らず口だけは昼間と変わっていないかもしれない。

それに、と氷川が付け加えた。
「眼鏡はダテだから」

「は?」

「度数が入っていないから、かけてもかけなくても変わらない」

「なんでそんな……」

「女避け。真面目そうにしていると、話しかけられなくて済むでしょう」

何その贅沢な悩み。嫌味だろうか。他の人が聞いたら怒るに違いない。

確かに氷川のルックスは、眼鏡をしている今でも人気が高く、女性社員はすれ違うだけでほうっと息をつくくらいだ。
知的で神経質そうなイメージが、女性陣をわずかでも牽制してくれているのは確かだろう。
眼鏡を取って話しかけやすい雰囲気になったら、肉食女子たちがわらわらと群がってくるに違いない。
それでは仕事どころじゃないだろう。
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