イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「……ああ、そういえば、」

カウンターキッチンの柱の陰からひょっこりと氷川が顔を出した。

「仕事、まだ終わってないと言っていたっけ?
会社のネットワークにリモートで接続できるけれど、今のうちやっておく?
これから改めて会社へ戻るなんて、嫌でしょう」

「……そんなこと、できるの?」

「合法かどうかは別として、できるように、仕込んである」

キッチンから出てきた氷川がリビングの奥の部屋へと向かう。
彼のあとを追いかけると、中には大きめのベッドとクローゼット、本棚、そしてデスクトップパソコンが置かれていた。

パソコンの電源を入れると、モニターの横に置いてある大きな躯体から、ファンのぶぅんという振動音が漏れてきた。
モニターがデスクトップ画面を表示するのを確認して、彼はキーボードをパチパチと弾く。
傍から見ていると何を指しているのかさっぱり理解できないポップアップやらウィンドウやらを、彼は慣れた手つきで操作していく。

幾度がパスワードを聞かれて認証をクリアした後、モニターの全面に、会社で使っているパソコンのデスクトップ画面が立ち上がった。

「今、俺の端末にログインしてる状態。さすがにあなたのPCにもぐりこむことはできないけれど、サーバーには一通りアクセスできるから、なんとかやりくりして」

氷川が淡々と説明を述べ「あとはお好きにどうぞ」そう告げて部屋を出ていく。

比較的残業が少ない人だなぁとは思っていたのだが、まさか家から仕事ができるように裏工作していたとは。
やはり機械に強い人は羨ましい。今度やり方を聞いておこう。

「さて、それじゃあ、一仕事しますか」

私はパソコンチェアに座り、背筋を伸ばした。
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