イジワル御曹司のギャップに参ってます!



台所からトントンと響いていた包丁の音が、やがてジャッジャッというフライパンを振る音に変わった。
三十分くらい経っただろうか。私はなんとか仕事を一区切りつかせ、伸びをした。

徹夜明けでさすがに頭がぼんやりとする。
後ろにあるベッドが私を誘惑しているけれど、一度寝てしまったが最後、きっと明日の朝まで起きれなくなるだろう。

ふと横にある本棚に目を向けると、小難しい実用書や技術書籍の類が並んでいた。
読みやすそうな小説などは一冊も見当たらない。文学は好まない性質のようだ。
私たちの業界に関する書物や、仕事の仕方のHOW TO本なんかもあって、そこそこ勉強しているようにも見える。

……ちゃんと全部読んでいればの話だが。

こういうのって、買うだけで実際読まなかったりするんだよね。積ん読ってやつだ。

そんなことを思いながら、特に難しそうな一冊を手に取り、おもむろにページをめくったところで、私は言葉を失った。


文章の要所要所に蛍光マーカー。吹き出しと書き込み。
別の本を手に取ってみても同じだった。どの本も書き加えられた文字で真っ黒になっている。

す、すごい……

私だって、そりゃあ読書くらいはするけれどさ、これだけ深く注力して本を『勉強』したことなんてない。
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