イジワル御曹司のギャップに参ってます!
超安定志向の、お役所仕事。面倒くさいことはなるべく避ける主義。
仕事に対しては、最低限の労力しかかけたくない――そんな人だと思っていた。

けれど、私の手の中にある真っ黒になった本、ここから見えてくる彼は、勉強熱心で向上心に溢れていて。

確かに、氷川の判断はいつも論理的で筋が通っている。
私と価値観は違えど、間違ったことは言わない人だ。
状況判断の得意な、器用な人なんだ、くらいに思っていた。

けれど、どうやら違うみたいだ。涼しい顔をしながら、人知れず彼は努力し続けてきたのだ。
彼が今、評価されている理由は、学歴というオプションや運の良さだけではない。
努力に裏打ちされた実力。


かつての自分の言葉を思い返して、急に恥ずかしさが込み上げてくる。
――高学歴ってだけで評価されるからなぁ――

私は間違っていたのかもしれない。目に見える上っ面だけを捉えて、他人をジャッジしようとしていた。
それって、すごく恥ずかしいことだ。


ふと本棚の下の方に並ぶ分厚いファイルに気が付いて、私はしゃがみ込んだ。
背表紙には西暦年が各々記されていて、直近五年分が並べられていた。
今年のファイルはまだ薄く、きっとこれから記すところなのだろう。
私は一番分厚い去年のファイルを手に取り、中をめくる。


これ……


私の視線は、ファイルの中身に釘付けられた。
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