イジワル御曹司のギャップに参ってます!
「仕事片付いた? 食事ができたけど……」
寝室を覗いた氷川が、ファイルを手にする私の姿を見てあっ、と声を漏らした。
「……勝手に見ないでもらえる?」
まずいもので見られたみたいに、慌てて駆け寄ってきて、私の手から乱暴にファイルを取り上げる。
手が届かないような高い位置に持ち上げられて、私はおもちゃを取り上げられた子どもみたいに手を伸ばす。
「返して」
「いや、返すも何も、俺のだから」
「でも、それは……」
私はおずおずと彼のシャツを小さく掴んだ。
「私のプロジェクトの記録だよね?」
ファイルには、去年私が担当した、大手家具メーカのCMと、連動した記念イベントの写真や切り抜きが貼られていた。
合わせて彼のコメントが所狭しと書き加えてある。
このプロジェクトの成功点、失敗点、改善すべきところ、特出すべき部分、クライアントの評価、視聴者・来場者の声。
私だって気付けなかったことまで事細かに記されている。
自分の仕事でもないのに、これだけ研究したというのか。
氷川はファイルを元の位置に戻しながら、ぶっきらぼうに言った。
「……別に、あなたのプロジェクトだけじゃないよ。他の人のも、参考になるものは全て載せてる」
「……どうして、こんなものを」
「目の前にたくさんの手本があるのに、見習わない手はないだろう?」